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Seven
第6章 グランジ
引け目を感じて雪さんは真緒さんから離れたという。……でも、それだけじゃないと思う。
青葉さんと雪さんが話した後、私に対して雪さんの態度が変わった。そのことをジュディさんに相談したら、ユータくんのお姉さん──真緒さんとの間にも似たようなことがあったと教えてくれた。
「【仕事】絡みのことも、あったんじゃないですか?」
「……純哉か。ったく、あのお喋り女装家め!」
項垂れながらも雪さんは「どこまで聞いた?」と眼孔を光らせた。「触りしか聞いてないです」私の返答に頷き返したあと、「煙草吸わせて」と断りを入れてから、雪さんはワイシャツの胸ポケットからタバコとライターを取り出し、煙草に火をつけた。
「……深雪ちゃんの言う通り、【仕事】も関係してると言えばしてる。けど、それが全てじゃない。タイミングが悪かったのもある。どんなに好きでもさ、時間が合わないと上手くいかないじゃん。会いたいときに会えないとか、声聞きたいときに聞けないとか。……俺、そういうの苦手なんだよねー。恋愛は楽しむものだと思ってるから。お互い、苦しい思いしてまで一緒にいることないし。別に結婚してるわけじゃないんだしさ」
雪さんの考えも一理ある。でも、好きだから会いたいし、好きだから声が聞きたい。毎回タイミングが合わないと、嫌われたのかと不安に思うこともある。特に、外見が整っているタイプは女の噂も絶えない。彼女一筋だとしても、取り巻く噂に心が乱されそう……。そうなって来ると、どこまで相手を信頼できるかが焦点になってくる。
ちらっと雪さんを見て率直な意見は【難しい】だった。どんな女性に対しても、雪さんは平等に接する。仕事上、人脈が物を言う部分もあるから仕方ないのだが、やはり彼女であるならば、彼の一番でいたいと思う。
「──恋愛に大切なのは、タイミング。好き同士だって、すれ違ったままじゃ進展しないもん」
「……確かに」
「深雪ちゃんも好きな人がいるなら、無理しないほうがいい。タイミングが合わない人を無理に追いかけたって、いいことなんて一つもないから」
「じゃ、俺戻るね」床に埋め込まれた銀色の円柱型灰皿で煙草の火を消すと、雪さんは去っていった。
「……諦めろってことなのかな」煙草の残り香が漂う室内で、壁に凭れるようにして椅子に腰を下ろした。