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Seven
第6章 グランジ
頭の中を疑問のハテナマークが埋めつくしたまま、オフィスに着いた。真っ先に視線を送るのは、雪さんの席。
「……あれ?」
私より先に戻ったはずなのに、オフィスに雪さんの姿は無かった。
「西宮さん、お疲れ様です。雪さんと一緒じゃないんですか!? どこ行ったか分からないですよね?」
小林さんが私の元へ来るなり、「お客様から雪さん宛に連絡があったんですが、雪さんと連絡取れなくて……」彼は困り果てていた。何とかしてあげたい気持ちはあるが、雪さんの行く宛に心当たりはなく、「ごめんなさい、わからないです……」としか答えられなかった。
まったく、雪さんはどこへ行ってしまったのだろう。おまけに雪さんの携帯と連絡がつかないなんて……。小林さんに詳しく聞いたところ、呼出音すら鳴らず、「電源が入っていない」とアナウンスが流れたという。社員間での仕事の連絡や顧客とのやり取りなど携帯はよく使用するため、普段から携帯の充電は小まめにするよう言われている。だから、電池切れは有り得ない……はず。
「雪さん、時々こういう事あるんですよ。誰にも何も言わず、どこかへプラ〜っと。おまけに携帯の充電し忘れて、連絡取れないことも多くて。でも、ここ最近は落ち着いてたんですよ。西宮さんと組むようになってからかな……」
「……私と組んでから?」
「雪さん、西宮さんのこと気に入ってるから。なかなかいないんですよ、雪さんと営業回りする社員」
「え? どうしてですか?」
「理由は、杉野さんです。雪さんのことをあまりよく思っていないから……。会長が社長だった頃から杉野さんは会長と仲がよくて、今のポストも会長が用意してくれたって噂です。働き者の会長──雪さんのお父さんに比べると、雪さんは外回りを理由に遊んでいるだけだと杉野さんは思っているみたいで。まぁ……業績だけ見たら、そう言われても仕方ないんですけどね……」
「だけど、大きな仕事を取ってくるのは、決まって陣川さんです!」
売り上げ・顧客集客率を見れば、確かに雪さんは三番か四番目だが、彼が獲得した企業は大手だったり、大幅な成長見込みのある会社だったりと、獲得が難しいとされる企業ばかりと契約を結んでいる。
「極論を言えば、会社は過程よりも結果が欲しいんですよ」小林さんの意見に反論できなかった。結果が伴わなければ、会社は成り立たない。