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Seven
第6章 グランジ
事件が起きたのは、それから程なくしてのことだった。
「ったく、雪のやつ!!」
朝から杉野さんの怒声がオフィスに響いていた。出社したばかりで状況が飲み込めない。そんな私のもとへ小林さんが駆け寄ってきた。
「小林さん、おはようございます」
「挨拶はいいから! 西宮さん、ちょっとこっちに来て!」
オフィスから出て、人気(ひとけ)のない廊下に出た。オフィス内は何やらバタバタと慌ただしい。時おり、杉野さんの声が聞こえてきた。
「雪さんの顧客の一社が傾いたんです……」
「え!?」
傾いたというのは、会社の経営が危ういということ。つまり、いつ倒産してもおかしくない状況だ。そうなれば、 当然保険料の支払いが発生する。保険加入者からしたら有りがたいことだが、保険会社からしたら損失になる。
「それで朝から杉野さんの機嫌が悪いんですね……」
「おまけに、雪さんがまだ出社してないんです」
腕時計に目をやれば、時刻は九時五分を少し過ぎていた。十時から勤務スタートのため、最低でも一時間前である九時にはみんな出社している。
「昨夜のニュースでも取り上げられたらしく、こんな状況だから誰よりも早く出社しているだろう!と思って、杉野さんは出社したみたいなんですけど……。雪さんの姿がなかったから、『あの野郎!!』って怒り出して……」
「……こんな日まで遅刻なんて」
困った人だ。そう言いいかけた時、ポケットに入れておいた携帯が震え始めた。「……噂をすれば」着信の相手は、問題の渦中にいる雪さんからだった。
「雪さんからですか!? 早く出て!!」
「は、はいっ!!」
温厚な小林さんが声を荒げた。事態の深刻さが伝わり、慌てて私は電話に出た。