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Seven
第6章 グランジ
「雪から話は聞いたと思うが、アイツは退社した」社長室の椅子に腰掛け、きっぱりと社長は私に言い放った。改めて社長の口から告げられ、雪さんの退社が現実なんだと実感した。
「……どうしてですか? 今回のような事態を招いてしまったからですか? 他に何か理由が──」
「そう捲(まく)し立てなくても、今から順を追って話す。まず、雪は勝負に負けた」
「勝負?」誰と何の勝負を雪さんはしていたのだろう……。ここ最近、雪さんの様子がおかしかった。その事と関係があるのだろうか。
「勝負の相手は──」
デスクの上にあった一冊の雑誌を見開きにし、社長から手渡された。そこに写っていた人物に私は言葉を失った。
「お前もよく知っているだろう」
「……どんな勝負を彼としていたのですか?」
「どっちが多く業績を上げられるか、だ。まったく、ガキ同士の喧嘩には呆れる」
「その有り様がこれだ」と今回の出来事を社長はため息混じりに語った。
「アイツは昔からそうなんだ。頭に血が上りやすい。売られた喧嘩への対処が【買う】しかない。他に【逃げる】という選択もあるのに。無謀だと分かっていても、アイツは──俺と違って、アイツは根が優しいんだ。自分より、他者のために生きているような男だからな」
雪さん本人は決して自分のことを自ら話そうとはしないが、こうして周囲から彼の話を聞くと、その大半は称賛。今まで様々な人に出会ってきたが、雪さんのように周りから良い話しか上がらない人物は珍しい。
「先日、一人のご婦人が会社に雪を訪ねて来た。何かやらかしたのかとお聞きしたら、道で動けなくなっているところを雪が救急車を呼んで助け、命が救われたそうだ。元気になり、退院できたからと礼を伝えに来たと言っていた」
「……そんなことが」
「君にも謝っていたよ。雪が『今日、新入社員が来る』と話していたらしくてな」
「だから、あの日……雪さんは遅刻して……」
「アイツのことだから、普段の遅刻も何かしらがあってのことなんだろう」
雪さんにとって人助けは当たり前のことだから、敢えて言うほどのことでもないのかもしれない。