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Seven
第6章 グランジ
「……雪さんの退社、やっぱり納得できないです」
「納得できないと言われてもな……」
どんな時でも平然を保っている社長の顔に困惑の色が浮かんでいる。自分でも大人げないことを言っている自覚はある。しかし、雪さんには──雪さんだからこそ出来る挽回方法があるはずだ。それは、もちろん【退社】以外の方法で。
雪さんは、いつだって誰に対しても優しい。だからこそ、彼に付く顧客は多い。多少、会社の利益よりもお客様を優先してしまうところはあるが。そこが今回の勝敗を分けることになったのかもしれない。
「実のところ、退社の提案をしたのは──雪自身なんだ」
「え!? 雪さんが!?」
「アイツなりに責任を取ろうとしたんだろう。ったく、考えがガキなんだよ」
呆れながらも、社長は話を続けていく。
「そこで俺は雪に提案をした。退社するのは自由だが、責任は自分で取れと」
「え? でも──」
「あー、スギさんたちのことか? 確かに彼らは雪の後始末に追われているが、雪には根本的な責任を取らせた」
「と、言いますと?」
「先ほど、見せただろ? 勝負の相手」
「あ、はい……」
雑誌に笑顔で写っていた相手の姿を思い出した。あの人と会ってから、雪さんの態度は変化した。勝負を持ちかけられて業績を上げようと必死だったのかもしれない。出来ることなら、少しでもいいから相談してほしかった。知識も経験もない私では話を聞いたところで、彼の役には立てなかっただろう。それでも【相棒】として、彼の側に私はいる。どんな時でも彼と共に歩いていく覚悟はできている。
「アイツ──青葉の会社は、まだ日が浅い。叩き潰すなら、今しかない」
物騒な言葉を発した社長に視線を送る。【叩き潰す】とは穏やかじゃない。
「すまない。だが、この業界は接戦なんだ。人口は減っても、将来のことを考え、保険に加入する者は増えている。そこで、他社も自社(うち)も契約プランに力を注いでいるわけだ。しかし、客のニーズに応えてばかりいたら会社は成り立たない。雪もその辺りは理解して動いている……はずだ」
社長は頭を抱えながら、「そう、きっとそうだ……」と自分に言い聞かせるように繰り返していた。雪さんは節度のない人ではない。ギリギリのラインを見極め、契約の交渉をしていたはずだ。
「大丈夫ですよ、社長。雪さんのことだから、きっと分かってますよ」