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Seven
第6章 グランジ
顔を上げた社長は「そうだな」と穏やかに微笑んだ。
「お前には本音を言うが、雪は会社に必要な人間だ。無論、アイツが弟だからじゃない。お前も雪と営業に出掛け、見聞きしていると思うが、アイツは営業に長(た)けている。信頼関係を築くのが非常に上手い。その点に関しては、アイツの右に出る奴はいないだろう」
「確かに! 営業に行った帰りは必ず、【ありがとう】とお客様から先に言われます!」
「俺としても、雪を手放すほうが会社にとって損失だと思っている」
「それじゃ──」
「あぁ。必ず、アイツには戻ってきてもらう」社長は大きく頷いた。私もそれに応えるように大きく頷き返した。
「それと。この間、エレベータで会った時に俺が言ったことを覚えているか?」
「……はい」
──【雪が言ったことを真に受けるな】
忘れるわけがない。社長に言われてから、どういう意味なのか必死に考えてみたが、全く真意が分からず、歯に物が挟まったように気になったままになっている。
「アイツは自分の本音を隠そうと、心にもないことを言う。会社のことを思って退社という選択をしたくせに、『この会社がどうなろうと関係ない』と俺に言った。好きな子に【好き】ではなく、【嫌い】と言ってしまう子供みたいな奴なんだ」
「……そういう意味だったんですね」
「ん? お前は違う意味だと思ったのか?」
「はい……。遊び人という噂もありますし……」
突如、社長は大笑いを始めた。どうして急に笑い出したのだろう。呆気に取られる私を見て、さらに社長の笑い声は大きくなった。
「あー、可笑しい! こんなに笑ったのは久々だ」
「何がそんなに可笑しいんですか?」
「どこからどう回って、そんな噂が立ったんだろうと思ってさ」
「え?」
「雪は、お前が思うような遊び人じゃない。むしろ、呆れるくらい──【一途(いちず)】だよ」