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Seven
第7章 急加速
突然、携帯が鳴り始めた。ディスプレイに表示された名前を見て、息が止まる。
── 着信 【陣川 雪】
メールではなく、電話。胸がぎゅっと締め付けられて苦しい。急な出来事に混乱したまま、画面を指でスライドした。
「もっしもーし」人の気も知らない陽気な声が携帯を通じて聞こえてきた。久々に聞く彼の声に心拍数の上昇が止まらない。
「もしもし……」
「お疲れー! って、元気ないじゃん。どしたー?」
「だって……雪さん、全然連絡してくれないから……」
「え? なに、俺のことで落ち込んでたの? ごめんね。最近、何かとバタバタしててさー。あ、メールありがとね。深雪ちゃんから連絡来て嬉しかったよ」
そんなことを言われたら、嬉しくて、ドキドキして、顔まで赤く染まってしまう。どうしていつも、雪さんは私が喜ぶ言葉を投げ掛けてくるのだろう。女慣れしているから、女性の扱いが上手いだけ? それとも──なんて淡い期待を抱いてしまう。
「……雪さんはズルいです」
「え? なにがー?」
「……別に」
思っていることを素直に言えたらいいのだけど……伝える勇気が出ない。そんな私を察してか、彼は話題を変えた。
「社長から聞いたけど、最近仕事頑張ってるらしいじゃん」
「……はい。杉野さんからも期待してるって言われたので」
「え? マジ!? あのスギさんが? 深雪ちゃん、スゲー! あの人、滅多に人を誉めたりしないから」
「そうなんですか?」
「うん。俺のこと見てたから分かると思うけど、雷落とす専門だからねー」
「あー……確かに」
雪さんと杉野さんのやり取りを思い出して、つい笑ってしまった。「おい、なに人が怒られてる場面を想像して笑ってんだよ」電話越しから届いた冗談混じりの文句に「ごめんなさい」と返せば、「でも、よく怒られたなー。あの人、短気だから」「違いますよ! それは雪さんが」他愛もない会話が電話を通じて続いていく。ずっと、このまま話していたい。もっと彼の声を聞いていたい。そんな気持ちが往復する会話のなかで、どんどん育まれていく。