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Seven
第2章 ロマンチスト
「着きました。こちらです」
「ありがとうございます」
「それでは」
一礼を交わし、トイレの扉を開けると、フローラルな花の香りが広がっていた。大きく息を吐き出し、鏡に映った自分を見つめる。疲れが顔に出ていた。二十代も後半に来ると、前半のような生き生きとした表情も少しずつ失われてしまった。
──遊び相手、作ったら?
陣川さんに言われた言葉がふと過(よぎ)った。恋から遠ざかって、大分経った気がする。浮かれる気持ちもトキメキも、すっかり埃を被ってしまった。好きな人のために……と女性を磨く努力もやめてしまった。
今の私に女性としての魅力はあるのだろうか……。鈴鹿さんや女社長さんのような美しさも女性らしいシルエットも私は持っていない。女性として欠けているところばかりが目につく。
もっと女性らしくなりたい! 営業先のトイレで決意するようなことではないけれど、私は決めた! 今日から女性を磨く!
「化粧、変えよう」
まずは化粧の仕方から。どうしたら大人の女性に近づけるのか、どういうメイクが大人の女性を演出してくれるのか、帰宅したらネットで調べてみよう。
トイレの扉を開けた。決意のおかげか、心が先ほどよりも軽くなっていた。