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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
社食の入り口で私は足を止めた。本日のおすすめメニューが書かれた黒板をチェックするのが日課になっている。
「へぇー。いろいろメニューあるんだね。おまけにリーズナブル」
「そうなんですよ! 安くて美味しくて、毎日助かってます!」
「深雪ちゃんは料理苦手?」
「どちらかと言えば得意ではないですね……」
「そうなんだ。料理はできたほうがいいよ。男は料理できる女性に弱いから」
「胃袋を掴め!ってやつですか?」
「だな! ……あっ! エビフライあんじゃん! 俺、エビフライ定食!!」
子供のように満面の笑みでサンプルのエビフライ定食を見つめる雪さん。よほどエビフライが好きらしい。
「深雪ちゃんは何にするの?」
「私は──」
さば定食にするかハンバーグ定食にするかで迷ったが、さば定食にした。決め手は、きのこの炊き込みご飯。社食の炊き込みご飯は天下一品なのだ。
「意外と渋いのが好みなんだね」
「きのこの炊き込みご飯が絶品なんですよ!」
「炊き込みご飯、美味いよなー」
「美味しいですよねー」
「家に遊びに行ってそんなの出されたら、その気になっちゃうな~」
「……雪さんの場合、遊びに行った時点で」
「は? 深雪ちゃん、それは心外だよ。遊びに行ったくらいじゃ、その気にはならないから。こう見えても、俺──かなり紳士だから」
「自分で【紳士】っていう人は信用できないです」
「深雪ちゃんも言うようになったな……」
いつもうまいように彼の手の中で転がされてしまう。こういう時くらい反発しないと。