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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
「はぁ……」
「随分と大きなため息じゃない?」
会社に戻ってから、ため息しか吐いていない。自分のデスクで項垂れていると、栗木さんが「これでも食べて元気だしな」とミルクキャンディをくれた。包装紙を破いて口に放り込むと、やさしい甘さが広がり、ギスギスした心を癒していく。
「雪くんと何かあった?」
「……いえ」
「本当に? 雪くんも西宮ちゃんと同じようにため息吐いてたけど」
「え!? 陣川さんが?」
「うん。珍しいよねって小林くんとも話してたの。あの人、滅多に落ち込まないから」
「確かに……」
上司から怒られても落ち込むこともなく、平然としている雪さん。何かあったとしても、それを引きずることもない。そんな彼が落ち込んでいるなんて……。よほど電話相手のことが気がかりのようだ。彼がそこまで思うのだから、やはり【本命】……?
「てっきり、西宮ちゃんと何かあったのかと思った」
「一緒に仕事しているだけで、何もないですよ」
「ふーん。でも、雪くんと楽しそうにランチしてたよね?」
「栗木さんも社食に居たんですか!?」
「手振ったのに二人とも全然気づかないんだもん。『二人の世界に入ってますね』って小林くんも言ってたよ」
栗木さんと小林さんがどこまで見ていたのかは分からないけど、【間接キス】を思い出して恥ずかしくなってきた。
「恋をすることはいいことだと思う。西宮ちゃんは若いし! 雪くん、カッコイイしね! でも──ここが職場だってことは忘れちゃダメだからね」
栗木さんの言う通りだ。私は雪さんに会うために職場に来ているわけじゃない。仕事をするために職場に来ている。……落ち込んでいる場合じゃなかった。
「……仕事しなくちゃ」
「うん! 仕事しよう! 分からないことあったら、何でも聞いて」
「はい! ありがとうございます、栗木さん」