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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
「西宮さん」細かい数字の入力作業をしている最中、雪さんに声をかけられた。数字の列がずらっと並んだ書類。今この用紙から目を離してしまうと、どこまで入力したのか分からなくなってしまいそうで、画面を見たまま返事だけを返した。
「あ……忙しいなら、いいや」
「すみません。急ぎの用件ですか?」
「いや。また後で」
「わかりました。すみません……」
「全然謝ることないよ。むしろ、きちんと仕事してるんだから、偉い偉い」
雪さんの大きな手が頭上に乗せられた。いつだって彼は急にアクションを起こすから、心臓に悪い。ドキドキが治まらないまま、次の行動に彼は出る。
「なに照れてんだよ?」
「照れてなんか──」
「すげー顔赤いけど?」
至近距離で異性に見つめられたら、誰だって緊張から頬を赤らめる。私のリアクションに満足したのか楽しげな笑みを残し、彼は去っていった。
「……結局、どこまで入力したのか分からなくなっちゃった」
雪さんめ……。絶対わざと意地悪しに来たな……。
「あれ?」デスクの上に私の好きな桃味の炭酸ジュースが置かれていた。いつの間に……。ペットボトルのパッケージに黒の油性ペンで文字が書かれている。
【これでも飲んで気分転換しろよ。頑張りすぎは禁物!】
丸みのある女子みたいな字。この字体から察するに、書いたのは雪さんだ。斜め向かいの自分の席に戻った彼と目が合うと、親指を立てグッドサインを私に送った。「ありがとうございます」とお礼を言えば、やさしい笑みが返ってきた。
ふわっと微笑む彼の顔が好き。飲み物の差し入れに加え、この笑顔が見れたから最高の気分転換になった。──ありがとう、雪さん。