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Seven
第5章 縮まる距離、開く距離
会社から最寄りの駅まで、大体15分ほど歩けば着く。市の中心部ということもあり、時間を問わず駅前の道路は車通りが多い。
──パァーーッ!!
突然鳴り響いたクラクション。通行人は皆、一斉に音の鳴るほうを見た。事故……?
一台の真っ黒なスポーツカーが私の真横で停車し、助手席の窓が下がった。
「約束、忘れちゃった?」
「ゆ、雪さん!?」
「なに先帰ってんだよ」
「だって……」
彼を待っていたが現れず、耳にしてしまった喫煙所での会話。雪さんだという確証はないが、内容に対してのショックが大きく、あの場から私は逃げ出した。とてもじゃないが、彼を待つ気持ちにはなれなかった。
「ま、いいや。それより、早く乗って」
「え?」
「ジム行くぞ。ほら、早く! ここ駐車禁止なんだよ」
迷う時間はなかった。パトカーの赤いランプが視界に入り、目の前の助手席に飛び乗った。
スポーツカーは風を切りながら、大通りを走り抜けていく。何だか落ち着かない。スポーツカーを運転している雪さんの横顔も見慣れず、違和感しかない。いつも営業車だからなぁ……。
「ん? 乗り心地悪い?」
「いえ!」
「そう? もしかして、俺の自家用車が営業車だと思ってた?」
「……いいえ」
「その間(ま)は絶対思ってただろ!」
「まぁ、少しは……。雪さん、営業車で通勤してますし……」
「社長からの指示なんだよねー。『お前はすぐ女性を見ると口説くから、相手にされないように営業車乗っとけ!』ってさ。可愛い子見つけて、声掛けて何が悪いんだか」