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Seven
第6章 グランジ
「なーに、スギさんとニヤニヤしてたんだよ」
「わっ!? 急に出てこないでくださいよ! ビックリするじゃないですか!!」
デスクに戻り、パソコン画面を覗き込んでいると、向かいの席との仕切りから雪さんが顔を覗かせた。
「……行くぞ、外回り」
「え!? 今日もですか!? さすがにデスクワークが溜まってて……。陣川さんだって、書類の山が──」
「俺のはいいんだよ」
「どうしてですか?」
「決まってんだろ? ──雛田(ひなた)!!」
雪さんが名前を呼ぶと、斜め右後方のデスクに座っていた男性社員が立ち上がった。彼とは入社時に挨拶を交わした程度。黒渕の眼鏡をかけ、市役所や銀行などで働いていそうな真面目な見た目をしている。性格も控えめで、前髪を斜めに分けた黒髪男性だ。年齢は29歳。
「……陣川さん、なんでしょうか?」
「お前に頼みたい仕事がある」
「またですか? 少しはご自分で──」
「この間のこと、忘れたわけじゃないよな?」
「それとこれとは別問題ですよ!! それに、あのときの出来事なら解決したじゃないですか!」
「困ったときは助け合いだろ?」
「……やり方の汚い人だ」
「商売上手って言ってほしいなぁ」
「……まったく。西宮さん」
「はい!?」まさか自分に雛田さんが話しかけてくるとは思っていなかったから、声が上ずってしまった。なぜ、彼は私に声を掛けたのだろう。
「君、彼とパートナー組んでて疲れないの?」
「え? いえ……特には」
「はぁ……。あまり、陣川さんのこと甘やかさないでくれる? こっちが迷惑被るんだから」
「……すみません」
書類の山を雛田さんは抱え、自分のデスクに戻っていった。
「な? 俺のはどうにかなっただろ?」
「周りの方の仕事増やしただけじゃないですか!」
「当然。会社は仕事するところだから。仕事のフリして、ネットゲームやってるよりかはマシだろ?」
「……あ」
「多いんだよ。そういう奴」
いつも雪さんの観察眼には驚かされる。誰も見ていないようなところに着眼点を持っていくから、他の人は気づかなくても雪さんには見えている。