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Seven
第6章 グランジ
「ほら、早く行くぞ」自身の書類が片付き、雪さんは手招きしているが、私の机には書類が山積みのまま。外回りなんてしている場合じゃない。おまけに杉野さんとの別れ際、「デスクの上、綺麗にしとけ」と念を押されてしまった。
「これ全部片さないと、外回り行けません……」
「外回りの基本、忘れた?」
「忘れてないです! でも──」
「2人1組で外回りは行くこと。はい、行くよー」
「ちょっと、陣川さん!」
人の話も聞かず、彼はオフィスから出て行ってしまった。こうなっては、彼に従うしかない。今は席を外していてオフィスにはいないが、杉野さんの怒った顔が目に浮かぶ。心の中で杉野さんに謝りつつ、雪さんの後を追った。
「ったく、真面目すぎるんだよ。深雪ちゃんは」
「雪さんが不真面目すぎるんです!」
「ははっ! その通り!」
「まったく、笑い事じゃないですよ!」
歩く足を止め、雪さんは私と向き合った。斜め上にある顔が近い。
「──知ってた? 人は正反対の人に惹かれやすいんだってさ」
「……そう、なんですか」
「だからなのかな。俺たち、周りからなんて呼ばれてるか知ってる?」
「知らないです」
「【ベストパートナー】」
「ベスト、パートナー……」
口に出してみたら、気恥しさと嬉しさが込み上げてきた。雪さんも嬉しそうに微笑んでいる。
「深雪ちゃんの真面目なとこ、いいと思う」
「そう思うなら、もっと真面目になってください」
「俺、真面目ってよく分かんないんだよね。雛田みたいな真面目ぶってる奴もいるし、深雪ちゃんみたいに根っからの真面目もいるし。社会に出たら、仕事ができる奴かそうじゃない奴しかいないじゃん? 真面目じゃなくたって、仕事ができればそれなりに評価もされるし。だからさ、俺は【仕事が出来る人間】になりたい」
いつになく真面目なことを話す雪さんから視線を外すことができなかった。遅刻はするし、自分のデスクワークを後輩に任せたり、勤務態度は良くないが、それ以外の仕事ぶりは頼もしい。
営業も私一人じゃ心もとないが、雪さんがいることで安心感が生まれ、接客に自信が持てる。場を和ますことに彼は長けていて、初対面の方でも少し話しただけで笑顔にしてしまう。まさに、【営業の天才】だ。