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Seven
第6章 グランジ
仕事中の雪さんを表すなら、それこそ【真面目】。何が真面目か分からないと本人は言っていたけど、今日より明日、明日より明後日……と常に現状に満足せず、上を目指し続ける姿勢は真面目以外のなんでもない。それを分からずに努力を重ねているところが雪さんらしい。
「なんかさ、深雪ちゃんと組んでから、仕事が上手くいくようになったんだよね。まぁ、この間みたいな例外もあるけど」
「……園田さんの件は忘れましょう」
「あ、悪い。俺が言いたかったのは、その件じゃなくて……。あの時は、ごめんな。もっと早く、深雪ちゃんがいないことに気付けばよかった」
あれから園田さんの会社とは取引していない。青葉さんがどこへ行ったかも不明だ。鈴鹿さんも退社したと雪さんから聞いた。
自分のことのように苦しい表情をする雪さんに私は精一杯の笑顔を見せた。
「それで、今日はどちらに営業に行くんですか?」
「……今日行く会社は、新規立上げで社長が若いらしい」
「へぇー! どんな方なのか楽しみですね!」
「なんだよー。若さなら俺だって負けてないからな!」
「はいはい」
「あ! 今、呆れただろ!?」
「呆れてませんよ」
「俺だって、まだまだ現役なんだからな!」
「雪さん、モテますもんねー」
「全然言葉に感情がこもってないよ、深雪ちゃん」
「そんなことないですよ! 【彼女】さんだって──あ」
【彼女】のワードが出たとき、雪さんの顔から笑みが消え去った。ピリピリした空気が彼から漂い始めている。
「誰に聞いたの? その話」
「……雪さん、カッコイイから【彼女】さんいそうだなと思って」
さすがに小林さんから聞いたとは言えなかった。でも、前みたいに否定する──
「……うん、いるよ。【彼女】」
「え?」
「不特定多数じゃなく、ね」
世界が一瞬にして色を失った。最近は、一緒にいても雪さんの携帯が頻繁に鳴ることはなかったのに……。
「ほら、着いたよ」
仕事に集中したいが、感情が複雑に絡み合って心と頭の整理がつかない。数歩前を歩いている雪さんの背中が遠く感じる。