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Seven
第6章 グランジ
有名会社が軒を連ねているタワービルの一室に青年実業家のオフィスはあった。どんな仕事を主にしているのか詳しいことは私には分からないが、今流行りのIT企業らしい。雪さんが会社について説明してくれたのだが、全然理解できなかった。
室内は思ったより広くはなかったが、周りの風景を一望できる見晴らしのいいオフィスだ。白を基調とした室内は殺風景で物が少なく、どこか真新しい香りがした。受付の女性が私たちを打ち合わせ室へ通し、お茶を運んできてくれた直後、入れ替わりで青年実業家が入室した。
「久しぶりだね、お二人さん」
「は!? なんで、お前がここにいるんだよ!!」
驚きすぎて言葉を失っている私に代わり、雪さんが彼に質問を投げつけた。
「まさかとは思うけど、お前が──」
「そっ。俺がこの会社の社長」
「マジか……。終わったな、この会社」
「そう言わないでよ。これでも、ちゃんと経済について学んだ身なんだからさ」
「へぇー。お勉強のし過ぎで、人として大事なこと忘れちゃったんだな。かわいそうに」
「その件については深く反省してるし、彼女にも申し訳ない気持ちで一杯だよ」
彼に近づくと、雪さんは彼の胸ぐらを掴んだ。私に背を向けているため、雪さんが今どんな表情をしているかは窺えないが、車内でこの件の話が上がったとき、自分のことのように苦しい表情をしていた。もしかしたら、今も──?
「おい、青葉。いくら謝罪の言葉を並べたとしても、心に負った傷は無くならない。消えないんだよ、これからもずっと。分かるか? 女性から見た俺たちは牙の生えた猛獣みたいなもんなんだよ」
雪さんの言葉を青葉さんは黙って聞いていた。「悪いけど、少し席外してくれる?」振り返った雪さんの顔にいつもの穏やかさは無かった。冷徹な表情は兄である社長とそっくりで、こんなところで兄弟の似ているところを発見するとは思わなかった。