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Seven
第6章 グランジ
「青葉さんと何かあったんですか?」そう聞けたらいいのだが、どう見たって何かあったのは明白だし、不機嫌なときの雪さんは口数が極端に少ない。聞いたところで何も言わないだろう。重い空気を乗せたまま、雪さんが運転する社用車は会社へと向かっていた。
「……西宮さん」
「なんですか?」
久しぶりに二人きりのときに苗字で呼ばれた。ここ最近は、いつも【深雪ちゃん】と呼ばれていたから、他人行儀というか、よそよそしく感じてしまう。こういった小さな変化にも一喜一憂している自分がいる。仕事とプライベートを混合するのはよくないと分かっていても、心は嘘をつけない。
「しばらくの間、デスクワークに集中して」
「え?」
「そのほうがいいでしょ? むしろ、俺はそのほうがいい」
「どういう意味ですか?」
「外回りは、俺一人で行く」
「……青葉さんと何かあったんですか?」
「別に。前から言おうと思ってたんだけど──西宮さんは、外回り……というか営業に向いてないと思う」
これまでとは裏腹な態度にどうしていいのか分からない。ベストパートナーだって言ってくれたのも、全部冗談? どこまでが本気なのか、全然雪さんの考えが読めない。
「私……」
「大丈夫。スギさんには俺から伝えとくから」
そういうことじゃなくて……。私は本当に向いてないのでしょうか? どうして急に? どう自分の考えを伝えたらいいかもがいていると、雪さんが窓の外に独り言を呟いた。
「……タイミングが悪い」
ますます彼の気持ちが分からなくなった。何に対して、【タイミングが悪い】のだろう。気になることばかりが積もっていく。答えを知っているのは、彼だけ。気になるなら、聞けばいい。そう分かっていても、隣にいる彼との心の距離が離れすぎていて聞くことができない。
会話もないまま、車は会社の駐車場に到着してしまった。