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モデルの撮影だったのに
第1章 起
みくは少しびっくりしたようで、手を私から引き抜くと「これは?」ともう一つのリングのデザインについて聞いてきた。

「インディアンリングって言って、いぶし液に入れると彫ったとこが黒くなるんだ」

私は「ちょっとはめてみよっか」と彼女の指をとった。

アクセントにスカイブルーの石をいくつか散りばめている。

そっとはめてやる。

「ほら光に反射して、青色がきらきら光るでしょ」

「すごい、きれいぃ♪」

みくは無邪気に言う。

「それあげるよ、記念に」

「えーほんとぅ!いいのぉ」

「うん、また作るから。じゃあ、早速アクセ講習を致しますか?」

「うん」

彼女の目がきらきらと輝いているのに気をよくした私は、一生懸命にやり方を教えた。

彼女が書いてきたデザインはシンプルなもので、ハートの形を線対称にしたクロスチョーカーというペンダントだった。

ハートは流線が命で結構難しい。

「あたしさ、工作好きなんだけど、不器用だからうまくできない」

言いながら、デザインにそって溝を彫るみく。

やすりで丁寧にこすりながら表面の艶をだす。

私は彼女の指先をじっと見ていたが、危なっかしい。

彫りすぎるとラインが深く広くなりすぎてしまう。

「ちょっと、彫り過ぎないようにね」

「えー、どれくらいまで彫ればいいのかな」

「少し線が硬いな。こうするの」

彼女の後ろから、みくの右手に自分の右手を被せて一緒に彫る。

石鹸の匂いのする髪が、私の頬にそよそよと触れるのを感じながら、右手に神経を集中させる。

彼女の呼吸と髪、それと肌からの匂いにくらくらしてきた。

彼女の髪に自分の頭をぴったりとくっつけてしまう。
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