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当機は偶然により、運命を変更致しました
第2章 涙のチキン南蛮
「ちなみに、泊まるホテルは、ここ。」
お隣さんはカウンターの端に置いてあった観光マップみたいなやつを取って開いて、ここから近いホテルを指差した。
「このホテル、知ってる?」
知ってる、って。
物凄く目立つホテルだ。
少しでもここに馴染みのある人だったら、知らない人は居ないと思う。
「見たことは、何回も有るけど……泊まった事は、有りません」
「そっか。良かった」
良かったって。それ、良かったの?
「良いホテルだよ?温泉だし」
そうだね、温泉だね。
それも多分知らない人は居ないと思うよ、ホテルの名前に入ってるから。
だけど、今日会ったばっかりの男の人で、もう二度と会わない様な人と、同じ部屋に泊まるって……。
良いホテルの広い部屋でも、有り得ない。
浮気されて別れたって言っても、そこまで落ちては居ないんですが?
でも、現実問題として、宿が無い。
漫喫とかスーパー銭湯に泊まるって言っても、不慣れな土地だ。探せるかどうか分かんないし、探したとこが快適かどうかも、分かんない。
「まだ悩んでる?私、怪しい者では有りませんよ?こういう者です」
駄目押しの様に、名刺を差し出された。
聞いたことあるでっかい社名と、なんだかよく分からない片仮名の部署名と、ちょっとした役職が書いてある。若く見えるのに、役付きかー。
そして、名前が。
「……ショーゴ、さん……」
「はい?」
なんて偶然。
別れたての元彼と、同じ名前だ。