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扉の向こう
第6章 久しぶりの・・・
スーツの男性が少し重めの扉をゆっくり開ける。ジャズなのか、ウッドベースの響きが心地よい。まず、スーツの男性が入り、香菜に入るように促す。香菜の目の前に、木の温もりを感じる落ち着いた色合いの内装と、座り心地良さそうなカウンターシート、明るすぎない間接照明の店内の光景が広がる。カウンター越しに見えるお酒の棚には見た事が無いようなお酒が沢山ならんでおり、香菜はその空間の雰囲気に圧倒されていた。「香菜、こっちだよ」男性が香菜の右に立ち、自然に左手が香菜の背中に添えられて、カウンターの左端の席にエスコートされる。香菜は突然背中に添えられた手にドキッとしつつも、エスコートされるがままにカウンターの左端の席に座せられた。香菜は初めてのバーの見慣れない空間に圧倒され、緊張し、前の店での饒舌さが嘘みたいに、借りてきた猫みたいになってしまっていた。肩を寄せて座るスーツの男が、香菜に視線を合わせ、自然に「香菜はどんなのが飲みたい?甘いの?それともさっぱりしたやつにする?どうせだったらシェイカーをかっこ良く振って作るカクテルにしようか? 」と香菜のお酒をオーダーするために今飲みたいお酒の味を聞く。「サッパリしたやつで」香菜は雰囲気を壊さないように、必死に作り笑顔で答える。「すみません、俺はジントニック、彼女はバーに初めて来たので、シェーカーを振るカクテルで、味はサッパリしたやつで、アルコールは弱めでお願いします。あと、ミックスナッツとチーズ盛り合わせで」男性がバーテンダーにオーダーする。バーテンダーは男性に「お好みのジンはございますか?」と聞く。「じゃあ、タンカレーで」スーツの男性はスムーズにオーダーを伝える。香菜は普段からは想像できないスーツの男性の落ち着いた振る舞いにびっくりし、思わず見とれてしまっていた。しかし、ふっと我に帰り、「ずいぶん慣れてるけど、こういうバーなんて、いつ誰と来たのかしら?」と言って口を尖らせる。「同僚とだよ、あとは漫画で知った知識」笑顔で答える。目の前ではバーテンダーが手際良く二人の飲み物を準備している。シャッシャッシャッ、シェーカーを振る音が気持ち良い。二人の手元に飲み物がそろう。「楽しい今日一日に乾杯」二人はグラスを合わせる。静かにグラスに口をつける二人。「香菜、初めて飲むバーテンダーのカクテル味はどうですか?」男性は香菜の方を向いて言った。