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第1章 契約

「あの、すみません」

男性に声をかけられたのは、つい先日のこと。
飲み会後のふわふわと心地よい足取りで、駅からアパートへの帰り道、みずきがぼんやりと歩いている時だった。

「はい？」

あたりはまだ立ち並んだ店のあかりと少なくない人通りの量で、みずきは警戒せずに足を止める。
黒髪にメガネ、スーツを着た男性は真面目な会社員、といった風貌だった。
酔っ払っていたのも要因ではあるが、当たり障りのない会話から始まり、気付けば近くのカフェで男性と向き合って座っていた。
彼のおすすめ、と注文されたワインが手元に運ばれてくる。
こじんまりとしたオシャレなカフェで、静かではあるが客席は半分ほど埋まっている。
ワインを口に含めば、甘く飲みやすい風味が口に広がり、そんなに強くないというのに軽く一杯飲み干してしまった。


「それでは、先ほどのお話ですが」
カバンから取り出された紙が、机の上へと置かれる。
一枚だけの簡単なもので、特に難しい内容でもなかった。