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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑

   *

「では、しばらくこちらでお待ちを……御館様の手が空かれましたら、私がお迎えに参ります」
「ありがとう」

 四十がらみのこの家の家令は、丁寧なお辞儀を残して去りました。

「……ふー……」

 案内された西の館の一室の扉がきちんと閉められたのを確認したジャナは、我知らず溜め息を吐きました。


 ここへ赴く事をジャナが了承した旨をネリが伝えるや否や、最速で日程が決められました。
 先方から差し向けられた乗り物に、ジャナは身一つ……と、手回り品少々を持って乗り込みました。日程が決まって以来毎日「やっぱ止める?止めない?止めても良いのよ?」と言い続けたウバシは、往生際悪く甚だ不機嫌そうに出立を見送っていました。

「ねー、止めとこ?誰か別の子が行けば良いんだし……あ!アナタ、そろそろ月のもの来るんじゃない?いっそ、だから行けないって事で!!」
「……師範さま。」
「なあに?」
「月のものは、丁度終わった所で御座います。それに男子に月のものは御座いませんので、行けない言い訳には使えません」
「んぐっ!!!」

(大丈夫ですよ、師範さまー)

 最後に交わした身も蓋もない会話を思い出し、ジャナはウバシに微笑みました。

(ご心配なさらなくても、ジャナはお役に立ちますから……弟子としての務めを、ちゃんと果たして参ります)

 小さく手を振ると、隣で見送っていたネリに小突かれたウバシは、渋々こちらをじろっと見ました。それを見たジャナは油断したのか、いつもに似合わず娘らしくくすくす笑いましたが、差し向けられた御館様の使いの者は、それには全く気付きませんでした。

「いやー、あちらのお頭様は、本っ当に恐ろしい御方ですね……睨み殺されるかと思って、背筋がピシッと凍り付いちまいました」

 使いは後日同僚にそう語って居たそうですので、同行することになった若者の様子に目を配る余裕など、無かった様で御座います。
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