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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑
(これが、西好みの部屋……)
しばらくここで待つ様に、と言われた部屋は、簡素ながら趣味の悪くない調度が、短い滞在に不自由の無い程度に備えられていました。
ジャナは、ここに来るまでの間も、初めて訪れる西の風物やお屋敷の中のあれこれを、興味深く眺めました。
この部屋が特別味気ないというのではなく、外観から既にすっきりとした建物でしたし、通って来た玄関や廊下や居間にも使い勝手の良さそうな家具や落ち着いた無地の絨毯、煩く無く風景に溶け込むとびきり質の良さそうなクッション等の布類が、控え目に配置されていました。
(同じようにお金持ちでも、ロゼ姉様のとことは、随分違う……しーんとしてる、何もかも)
ローゼルの結婚式の際に訪れた南の地の調度品は、客人用の部屋であっても、ふんだんに装飾が施されたものが使われておりました。色彩も華やかで柄もはっきりしており、大輪の華の様なローゼルや賑やかなビスカスの住まう地の好みの設えとして、至極納得の行く物でした。
(南が明るくて陽気で喜怒哀楽がはっきりしてるとしたら、西は品良くすっと澄ましてて、外の者には中のごちゃごちゃは見せない、ってこと……?)
『西の御方様?……あの方は、まるで氷みてえな女だったよ!』
部屋の雰囲気から主を推測したジャナは、今までここに来た事のある同僚達に聞き取りした内容を、いくつか頭に浮かべました。