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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑

   *

『それ、冬ですか?』

『違ぇよ!!……夏じゃねぇけど、ようやく春になって来たなーって、良い陽気の頃だ』

『俺は秋だな。夏が終わりそうな頃だ』

 ジャナは室内の椅子ではなく寝台に腰掛けて、ぼんやり思い出しておりました。
 その後、夏はどうなのだろうと思って真夏に呼ばれた者を探しましたが、見つけることは出来ませんでした。

(この辺は、夏はそこそこ暑いと聞いた……夏の盛りは人肌に触れたら暑いから男あさr……護衛の依頼が止むのだろうか……)


『ねえ、ジャナ。暑くても汗をかかない方法は、無いかしら?』

 夏の謎について考えていると、今度はローゼルの顔が浮かびました。

『そうですね。汗取りの粉などもありますけども、あれは出た汗を扱いやすくするためのものですし、水分を摂らないのは良くないですから……ありきたりですけど、室内なら窓から日が入るのを出来るだけ防いで、なるべく風通しを良くして……お出掛けでしたら、やはり風が通りやすい衣服を身に着けるようにして、日よけを使って……』

『いえ、その……日中ではなくて……』

『はい?日中ではないんですか?』

『ええ…………夜、なの。』

 ジャナ相手にでもかあっと顔を赤らめてもじもじと俯く姿は、普段の高貴なローゼルとは違った愛くるしさに溢れていました。

『ねえしゃま、かわいいっ……』

『え?』

 ときめき過ぎて思わず舌足らずになったのを誤魔化す為に、ジャナはこほん、と咳払いしました。

『いえ。旦那しゃまが気になしゃるので?』

『そうね……』

 ビスカスさん、というサ行が三つも出てくる呼び名を避けたものの、ジャナは発音に失敗しました。ローゼルはそれを全く気にせずに、顎の辺りに美しい指をあてがって考え考え答えました。

『……気にする、って言うか……』

 大事なローゼルに汗が煩わしいなどと失礼極まることを言おうものなら、兄弟子とて容赦はしない……とジャナは心の中で爪を研いだのですが。

『気にしないんだけど、喜ぶって言うか……喜び過ぎるの。』

 拍子抜けする答えが、返ってまいりました。
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