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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑

『はあ……お喜びになる……?』

 それのどこが困るんですか?と聞きたげなジャナの顔から、ローゼルはふいっと目を逸らしました。

『褒め千切られて、舐めまくられるの……それが、物凄く、嬉しそうなんだけど……私は、恥ずかしくって……』

『姉様。相済みませんが、方法は無いです。』

 そうきっぱりと断ったのは、ローゼルの悩みの相手が、ビスカスだからです。
 ローゼルは崇拝の対象ですが、ビスカスだってジャナには大事な兄弟子です。何か考えて教えでもしたら気が咎めますし、それが知れたらジャナは無事では済まないでしょう。
 それに、ローゼルが心底困っているようならばビスカスを裏切る事も厭いませんが、おそらく本当に困っては居ないのです。こんな事を人に相談できる時点で、「恥ずかしい」は惚気とほとんど同じ意味でしょう。

『汗を止めるのは、お体に障ります。汗を良く吸う寝具に変えたりで対処して下さい』

『そう……それなら、仕方ないわね……一番水気を吸いやすい寝具には、とっくになってるもの……』

(最初から決め付けちゃダメだな……ビスカスさんみたいに、暑けりゃ暑いほど嬉しいって人も居るんだから……)

 ローゼルの最後の一言については深く考えまい、と、ジャナは聞いた当時も思ったことをまた思い、


「ジャナ様」

「……はい?」

 外から聞こえてきた、扉を軽く叩く音と名を呼ぶ声に、返事をしました。


「御館様の手が空かれました。ご都合がよろしければ、ご一緒に軽いお食事でも摂りながらお話を、とのことです」

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