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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑
*
「失礼致します。お連れしました」
「お入り」
家令に連れられてやって来た部屋は、屋敷全体と同様に、すっきりとした印象の部屋でした。
女主の部屋だからと言って装飾に凝ることもなく、調度品も実用的で無駄が無さそうな品ばかりです。
「お前が今回来た子?」
「初めまして。お召し頂き、有り難うございます。ジャナと申します」
ジャナは手にした荷物を置くと、ひざまずいて頭を垂れました。
入室から平伏までの間に見た御館様は、想像よりも年若でしたが、噂の通りにひやりと冷たい印象でした。
どちらかと言うと美しい顔立ちと豊満な体つきなのですが、雰囲気に女性らしさが有りません。服装も上質ではありましたが、実用性重視なのか味気ないデザインで、着けている装身具も印章が付いているらしい指輪と細い鎖の首飾り程度です。
(……まるで、この御屋敷やこの地域の特徴を人型にしたみたいな御方だなあ)
「……ふん」
ジャナが興味深く思っていると、御館様が嘲る様に鼻を鳴らすのが耳に入りました。
「当主の秘蔵っ子と聞いたけど」
秘蔵っ子、と聞いた相手が前に来た弟子なのか他の誰かなのは分かりませんが、詳しいことは聞かなかったのでしょう。御館様にとって「秘蔵っ子」と聞いて抱いた期待は全く外れていたのだなと、ジャナは心の内で苦笑しました。
「その『秘蔵っ子』というのは恐らく『毛色の違った珍しい弟子』という意味ではないかと」
「珍しい弟子?」
「はい」
御館様は、頷いて顔を上げたジャナに少しの間無表情な目を向けたあと、自分の近くの席に着く様に命じました。
「それで?お前のどのあたりが珍しいというのの?」
荷物を席まで運んでくれた家令に対して黙礼しながら席に着きかけていたジャナに、御館様が聞きました。
「まず、私はもともと体術ではなく、肉体そのものを探求する家の出で御座います」
「肉体そのものの探求?」
「はい。例えば」
ジャナは手元の荷物の中から、蓋付きの陶器の容れ物を出しました。
「こちらは西の御方様にぜひにと思って持参しました、献上品の薬湯で御座います」
「……薬湯?」
目線の辺りに捧げ持たれた曰わく有り気に封じられている容れ物を見た御館様の目が、訝しげに細められました。