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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑
「はい。滋養強壮に優れ、いつまでも若く美しく居られるという秘伝の薬湯で御座います」
「ふうん」
それは先ほどよりも少しだけ長く、先ほどよりも冷ややかな「ふうん」でした。
「そんな得体の知れない物を、この私に飲めと?益どころか害が有るかもしれないものを?」
「お体に害をなす物をお持ちするほど命知らずでは御座いません」
ジャナは、苦笑しました。そういう反応が有るだろうとは、予測していたのです。
「……と私が申し上げましても、簡単にはお信じにはなれますまい」
しかし、この先数日をこの館で過ごす為には、出来れば口にして貰いたい物でした。
「まず、毒味がてら私が薬湯を頂きとう御座います。召し上がられるかどうかは、その後お決め下されば」
「……ふん」
三度目の「ふん」には、ほんの少し「面白そうだ」という響きが含まれておりました。
「飲み方は?」
「煎じる事も出来ますが、時間がかかります。とりあえず、お茶と同じ用意一式をお願い出来れば」
御館様は控えていた家令に目顔で指示し、家令は一瞬次の間に消え、程なくして若い女の召使によって台車に乗せられた茶道具一式が運び込まれました。
ジャナは容れ物の封を切り、蓋を開けました。
「あら」
蓋を開けると、器から花の香に似た匂いが漂いました。
花といっても、みずみずしい生花の香りとはかけ離れています。
少し黴臭いような、青く土臭い香りです。
ぐずぐずと部屋に残って興味深げにジャナのすることを見ていた茶道具を運んできた召使は、流れてきた香りに顔色を変えて退室しました。家令は無表情を装っていましたが、眉が不快そうにぴくりと動いたのを、ジャナは目の端で捉えました。
「不思議な香りだわね。これは、何が入っているの?」
御館様は淡々と言いました。
その言葉は怪訝そうではあるものの、拒否や嫌悪は一切感じられません。
そのことに気付いたジャナは、用意された皿に容れ物の中身を少し取り出して、御館様に見せました。