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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第7章 婦人の悩みと殿方の困惑
「あら」
皿に出された物を見て、御館様は驚いたような声を上げました。何かの花びらや蕾、種の様なものや削った木片状のもの、綿毛に覆われた植物等が混じりあっていたのです。
「意外と綺麗な物でございましょう? これは、正確に言うと、いわゆる『茶』ではないのです」
皿に出したものはそのままに、ジャナは手早く茶器に薬湯の素を匙で計り入れました。そこに湯を注いですぐに茶碗にあけて、新しい湯を注ぎました。
「茶ではない?」
「はい。広く飲まれている『茶』の元になる植物は、こちらには入っておりません。その代わり、薬効のある植物の葉や種、鉱物、動物の角などが配合されております」
「ほう……」
御館様はジャナの説明に興味を示したようでした。
実際は、植物の根っこや虫がついて出来る奇妙なこぶ、量によっては毒になる鉱物、ある種の食品に発生するカビ、食してはならないキノコ、動物のできものや内臓や生殖器や排……などが微量に配合されていたりするのですが、人聞きの悪そうな辺りはざっくりと割愛しました。
「御館様は、南の果物は召し上がられますか?」
「ええ、時々。……何故そんな事を聞くの?」
「体質によっては反応が強く出る場合もあるからです」
時間を計っていたジャナは、茶碗の湯を別の空の茶碗にあけ、そこに薬湯を注ぎました。
「っぐ」
「ふぅん……」
控えていた家令の方から変な音がしました。鼻から口にかけてを何故か掌で覆っています。
それに対して御館様の口からは、考え込むような「ふぅん」が聞こえてきました。
「……不味そうだわね」
「そうですか? 味覚は個人の主観に基づくものでございますから、人によりけりかと……」
ジャナは薬湯の出来を眺めました。近付いてはならないと親が子に言い聞かせる類の沼の様な、理想的な色をしています。
闘人館で薬草集めを見ていた何人かに乞われ、この薬湯の改良前のものを煎じて、希望者に振舞ったことが有りました。何人かは咳き込んでうずくまり、何人かは脱兎のごとく外に走り去り、何人かは物も言わずに倒れ伏しました。
「……珍味であるな」
何事もなかったかのようにウバシが言った時に頷くことができたのは、ほんの数名だけでした。
(これを飲むのは、あの時以来か……)
ジャナは、うっすら微笑みました。