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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第1章 闘人館の十五代
……さて。
その館の十五代目の頭は、歴代の者達の中でも傑物と言われた人物です。名を、ウバシと言いました。
先代の血縁ではなく弟子入りからのし上がった人物で、屈強な体躯にしなやかな筋肉、巧みな技と繊細な感覚に、乙女の心を持っておりました。
館の頭たる師範となる際に、先代が唯一不安材料として挙げたのが、その乙女心でありました。
先代に後継者としての打診をされた際、ウバシはそれは治せる様な物ではなく、己の本質と不可分で有るのだと主張しました。
確かに、その女性的な面が有ってこその、繊細さや豪胆さや肝の据わり方だと言えなくも有りません。
先代は話し合いの場で淹れた茶の湯気が引くまでの間熟考しましたが、まあいいか、と結論を出しました。
ウバシ以上に頭に適任な人間は、先代がこの館に来て以来接した中で、後にも先にも居なかったのです。
「……お前は、私より優れた師範となるだろう」
「えっ!?ほんっとに良いんですか、このワタシでっ!?」
「……良い……と言わざるを得ん」
先代は、茶を一口飲みました。湯気は立っていませんでしたが、まだ十分に熱い茶です。
「但し、条件が有る」
「何ですか?」
「今日から公的な場では、男の口調で話す様に。」
「えーーーっ!!無理ぃーっ!!…………きゃ!痛ぁーい!!!!」
「この、大馬鹿もんがぁあああああ!!」
間髪入れずに返されたウバシの黄色い声に、先代は怒りのあまり立ち上がって茶碗を蹴っ飛ばし、拳骨をくれてやりました。