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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第4章 天女とじゃじゃ馬
「師範の演武を拝見した時には自分に出来ると思えなかった技を、ジャナの講義を受けた後では、曲がりなりにも形に出来ましたから……あれで、ジャナの特別扱いへのやっかみは、途端に鳴りを潜めましたし」
「そうだな……」
それは、ウバシの策でも有りました。
いくら自分のお手付きだから手を出すなと言っても、ウバシの目の届かない所でジャナに余計な事をしようという者は、居ないとは言い切れません。むしろ、その為に却って反感を買う可能性も有りました。
それを黙らせるには、ジャナには特例で入門するに足る実力が有り、ジャナを害することが益にはならない事を、ジャナ自身が示さなければなりません。
見せ付けられたら誰もがぐうの音も出なくなる程の技と言えば、ジャナが入門審査の時に見せたあの技でしょう。相手の呼吸を奪うその技を指導者格の者達に教える事を持ち掛けた時、ジャナは一瞬も躊躇わずに同意しました。
「良いの?秘伝とかじゃないの?」
ジャナがあまりにもあっさり頷いたので、話を持ち掛けたウバシが尋ねてしまった位です。
「もちろんです。置いて頂けるのでしたら私の知っている事は全て師範さまにお伝えすると、お約束致しましたから。それに、師匠が言っていました。『療術に、秘伝など無い。それは誰もが身の内に備えている物の、扱い方の一つでしか無い。相手に悪心が無いのであれば、伝える事を惜しんではならない』と」
「へえ……」
ウバシは感心しかけましたが、ジャナの言葉には続きが有りました。
「……それに、一度教えた位で身に付くものでは有りません。本気で取り組んで物にしようと言う者にしか、伝わる事など無いのです。実際に使えない、『知っている』というだけの知識など、ただのゴミです」
皮肉っているとも思えぬジャナの淡々とした物言いを思い出し、ウバシはふうっと息を吐きました。
ジャナの講義は、ウバシの思った以上に反響が有りました。それまで燻っていた不満は雲散霧消し、ジャナは入門間もない新入りながら門人達に知らぬ者の無い、一目置かれる存在となったのです。