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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第4章 天女とじゃじゃ馬
*
「……なるほどねー……」
「どうよ……女云々どころじゃ、無いでしょーよ……」
「そりゃ……正真正銘の、療術馬鹿って奴ですねー……」
身近に居る果物馬鹿を思い出したビスカスは、自分がお嬢様馬鹿である事は棚に上げ、ウバシに同意致しました。
「療術馬鹿でも男の子だったら、こんな苦労はしなかったのにっ……!」
こんな苦労はしなくとも別の苦労はしただろうとビスカスは思いましたが、賢明にも黙っておきました。
「兄さんが、入門許可なさったんでしょ。仕方ねーじゃねーですか」
「そりゃそうだけど……女の子なのに……女の子の筈なのにっ……ここまで酷いと、思わなかったんだものっ……!」
(……あー……兄さんは、女に縁が薄いお人ですもんねー……)
テーブルにガバッと突っ伏したウバシを見たビスカスは、この兄弟子の身の上話を思い出しました。
ウバシは小さい頃にここの門人に拾われて、下働きに使用人、大きくなったら先輩に誘われて閨の相手と、ここでのあらゆる仕事を経験して来た、生粋の闘人館育ちです。
運良く恵まれた体格に成長し、十七になると同時に入門を許されると、めきめきと頭角を顕してあっという間に頭に上り詰めました。挙げ句の果てに先代に指名されて師範になりましたが、ビスカスとそれほど変わらぬ長さの今までの人生の間は、ほぼほぼ男にしか囲まれておりません。
ウバシが私的に会う女は居りませんし、仕事で会う女は食材を調達する時の肝の据わった農家か商人か、さもなくば金持ちの内儀や妾などの気取った依頼人位です。誰かの休みに付き合って街に繰り出した時に見掛けた女でも、淫靡な空気を纏った商売女か食い物屋の女将か女給仕程度です。
修行時代以外は普通に女と接して来たビスカスから見ても、ジャナは相当の変わり者に思えます。ウバシならずとも乗りこなし難い、かなりのじゃじゃ馬と言えるでしょう。
それに加えて、ジャナはウバシが今まで相手にした事のない分野の女なのです。ウバシはなんと過酷な相手を、弟子に取ってしまったのでしょう。
自分がお嬢様の生まれた時からいかに振り回されようと、自覚的には振り回されているとは少しも思った事の無いビスカスは、療術狂いの小娘に振り回されて疲弊している兄弟子に、心の底から同情しました。