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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する

「目立つ……」
「ええ」

 自分の困惑が移ったかの様に困惑顔になったウバシに、ローゼルは頷きました。

「師範様は、偉丈夫でいらっしゃいますもの。お一人で居られたら、女達が騒ぐのは勿論、殿方だってどなたなのかと詮索するでしょう」
「うーん……」

 考えてみれば、ローゼルの言うことはもっともです。見た目が厳つい男性が、護衛でも親戚でもない客として婚礼の席に一人で臨んでいたら、かなり人目を引くでしょう。

「ですから、ジャナをお連れ頂きたいのです」
「ジャナ?」
「ええ。弟子ではなくて、女の子のジャナですわよ?男女で居れば、殿方お一人でいらっしゃるよりも、大分人目は避けられますわ」

 ローゼルの言葉は、確かに一理有りました。
 二人の関係が、兄妹なのか主従なのか夫婦なのか親子なのかは周囲には判然としないでしょうが、ウバシ一人で居るよりもジャナと二人で居る方が、格段に婚礼の招待客らしいでしょう。

「ジャナの支度は、気になさらないで下さいな。全てこちらで用意致しますから……ジャナ、どうかしら?」
「ロゼ姉様の、結婚式っ……!?」

 ジャナは、ぱっと口元を綻ばせましたが、すぐにしゅんと俯きました。

「ありがとうございます。お申し出は、とっても嬉しいですけど……今まで、結婚式にお呼ばれしたことなんて、有りませんし……粗相が有っては」
「そんなの、平気よ!もともと、都みたいな上品な街じゃ無いもの」
「それに、新婦様ぁ天女様ですけど、お相手すんなぁ猿ですからねー。気取んなくても、大丈夫でさあ」
「……それも、そうねえ……」

 闘人館に居る間は女として振る舞う事は厳禁とはいえ、修行を終えたら女に戻って、生まれ育った村に帰るのです。
 前の日にビスカスに「変人だって療術馬鹿だって、女の子ですからねー」と言われたウバシは、ジャナに対して奉公人に花嫁修業をさせておいてやりたい家刀自の様な心持ちになりました。

「分かったわ。二人で呼んで頂けるのなら、二人で行かせて頂きます」
「っしゃ!有り難え!」
「ありがとうございます、師範様。……よろしくお願いするわね、ジャナ」

「はい!!ありがとうございます!!」

 相変わらず顔半分に被さったぼさぼさの髪の間から覗く目をきらきらさせて喜ぶジャナを見て、三人の大人は、穏やかに微笑みました。
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