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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する

「師範さま?」
「なあに、ジャナ」
「私、ビスカスさんの事、ダンス以外でも見直しました」

 ジャナがまた椅子に落ち着いて話し始めたので、ウバシもほっと落ち着きました。

「ロゼ姉様が女神様みたいにお綺麗だったのは、当然ですけど……ビスカスさんも、別人みたいに格好良く見えました。本当に、驚きました」

 前に会った時、ジャナにはビスカスが単なる陽気な猿に見えたので、二人はどう見ても釣り合わないと思ったのです。
 しかし、今日ビスカスがローゼルにかしずく様を見ていると、お伽話の女王様と騎士さながらで、一枚の絵画の様でした。女王様は気高く麗しくしっとりと落ち着いていて品が有り、騎士はそれなりに凛々しく男らしく頼もしく見えました。

「そうなのよー。あいつ、ちゃんとした格好するとー、普段の倍くらい男前に見えるのよねー」
「……師範様も、素敵ですっ!!……男前ですっ!!」

 相変わらずのビスカスの化けっぷりを揶揄ったウバシに向かって、ジャナが力強く請け合いました。

「あら、そお?ありがと!ワタシもビスカスと同じで、盛装なんて滅多にしないからねえ……。ジャナも、とっても可愛いわよ」
「ありがとうございますっ……」

 ジャナはジャナにしては珍しく、ぽっと頬を染めました。
 身を包んでいる綺麗な翡翠色のドレスは、ジャナによく似合っていました。
 上着は程よくゆとりが有って、締め付けない動きやすい形になっています。スカートは淑女の装いの標準よりは少し短めで、動くとふわりと広がって足捌きの良い、艶のある軽い生地で仕立てられて居ます。
 何事かが起こった際にも動きやすい服をというジャナの希望と、せっかくだからなるべく女の子らしい格好をして欲しいというローゼルの希望を摺り合わせた結果の、派手では有りませんが少女らしく愛らしいドレスです。

「奥様の、お下がりなんですって?よく似合うのを、上手に選んで下さったのねえ」

 昨日この館に到着した後、夕食を取ってドレスを選び、お風呂に入れられ洗い上げられ、髪も洗って貰っていました。
 あまりに念入りに磨かれたので疲れたらしく、ウバシと使っているこの二人用の広い客間に帰って来てすぐに、寝台に倒れ込んで眠ってしまった程でした。
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