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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する
「兄さんっ?!兄さんだって、ここらの踊りを踊った事なんざ」
「無い。でも大丈夫、見取り稽古したから」
「へっ?見取り稽古って……」
「見取り稽古」とは、実際に体を動かすのではなく、何かの動作を行っている様子を見る事で、自分が動く際の稽古をしたと見なす……という物です。闘人館では日常会話の用語ですが、一般社会で聞くような言葉では有りません。
そして、今ここで話されているのは、結婚式の余興の踊りについてであって、格闘の稽古についてでは有りません。
(兄さん……踊りゃあ、修行じゃねーですよ……?確かに、似ちゃあいますけど……)
ビスカスの頭にそんな言葉が過りましたが、口には出しませんでした。
言っても無駄だと、分かっていたからです。
結局、ウバシも、格闘馬鹿なのです。世の中の大抵の事を、格闘に変換して理解する様な人間なのです。ジャナの事を療術馬鹿などと、言えた物では有りません。
本人達がどう思おうが、周りから見たこの二人は、明らかに似たもの師弟でありました。
「おいで、ジャナ」
「でも」
ウバシに手を差し出されたジャナは、躊躇いました。
「アタシと踊るのは、嫌?」
「嫌じゃ無いですっ」
ジャナはぶんぶん首を振り、ウバシの手の上に、恐る恐る手を乗せました。
……そして。
「……ご無礼、御容赦下さいましっ……」
「よし、合意成立ね!」
何故か稽古を付けて貰う時の様な挨拶が交わされて、二人は広間に進み出ました。