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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する
「ジャナ?」
「はいっ」
「……緊張してる?」
「……すこし。」
(あらま!この子でも、固くなったりするのねーっ!)
ウバシはジャナの返事が「少し」ではなく「しゅこし」に近くなっている事に気付いて、微かに微笑みました。
何か声を掛けて、肩の力を抜かせてやろうかと思った所に。
「……あ。びしゅかしゅしゃん?」
「……あら。ビスカスが歌うのねえ!」
「え?」
何故ビスカスは一人で出て来たのだろう、と思っていたジャナは、ウバシの言葉に驚きました。
「ビスカスさんって、歌うんですかっ?!」
「そーよー!上手いわよ?びっくりするかも」
「……それは、心強いです……!」
そちらを見てほっとした様に笑うジャナに気付いたビスカスは、にやっと笑って目配せをして来ました。
「良い?ジャナ。アナタの後ろには兄弟子が居て、横には、アタシが居るわ」
ウバシは紅潮しているジャナの頬を、両手で包みました。
「転んでも、落っこっても、ぶつかっても、飛んでっちゃっても、何が有っても、大丈夫よ?ちゃーんと、ここに、戻って来れるわ」
「……はい」
ジャナは目を閉じて、すり、と大きな掌に頬擦りをしました。
「別に、難しい事じゃ無いわ……信じて、任せて、思った通りにおやりなさい」
「……師範さま……」
目を閉じたまま、深呼吸をして。
再び開いたジャナの目は、朝日に照らされた湖の様に、きらきらと輝いておりました。
「うん、良し。……さあ、存分に掛かっておいで!」
「はいっ!」
音楽が流れ出す前の、ぴんと張り詰めた高揚感の中で。
二人は手を繋いで微笑み合って、始まりのお辞儀を致しました。