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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する
それはまるで、小鳥が遊んでいる様でした。
大男と少女は最初から、招待客の中で異彩を放っておりました。
型通りに踊る人々の中で、二人は新郎の朗々たる歌声に乗って、決して他の邪魔をせず、伸び伸びと楽しげに踊りました。
この地の踊りは、元々は、男女の体の相性を見る為に出来たという踊りです。振り付けには成熟した大人同士の色めいた遊びごとが含まれるのが常ですが、異色の二人の踊りには、婀娜っぽさはほとんど有りませんでした。
翡翠色のドレスの少女は、まるでカワセミの様に、軽く素速く舞いました。
さらさら揺れる銀の髪、ふわりと軽く纏わる裾は、玉虫色に輝く光の残像を残し、広間に春風を吹かせる妖精を思わせました。
焦茶色に金糸の刺繍が施された重厚な盛装を纏った男は、自分自身も舞いながらも、少女の動きの全てを追い、先回りし、少女が踊りやすくなる様に、場を整えて行きました。
周りで踊っていた者達や、踊る人々を見ていた者達の中に、次第にわくわくと楽しい気持ちが湧いて来ました。
(あんな風に、踊る事そのものが楽しかった頃が有ったわねえ)
(祭りで踊っても良いって言われた時は、一人前になったみたいで誇らしかったなあ)
(この人と初めて踊った時は、二人とも本当にカチコチになって……でも、本当に嬉しかった……)
これだけ多くの人が居る宴席です。妬みや野心や、邪な気持ちを抱いている者も居たでしょう。
しかし、それらは一人の少女の無邪気な喜びに柔らかく包まれて淡雪の様に溶け、新郎新婦への祝福と、ほんのりとした幸福感だけが広間を優しく覆いました。
踊りが終わりに近付いて、少女が男から離れる角度に向かって、床を蹴って跳びました。
巨躯に見合わぬ速さで動いた男は細い体を易々と受け止め、少女はそれを足場にして、まるで重さが無いかの様にふわりと空中に舞いました。翡翠色の羽根は、くるりと優雅にその身をひねって回転し、男の元に舞い墜ちて来ました。
歌が終わると同時に少女が男の腕に納まると、会場からは拍手喝采が沸きました。