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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する

   *

「こんばんは、ジャナ」
「いらっしゃいまし、ロゼ姉様」

 長い結婚式の一日が、暮れようとしています。
 夕食の後、ローゼルはジャナの泊まっている部屋にやって来ました。
 一人ではなく、侍女らしき女が一人、必要な品々を持って付いて来ています。侍女は持参した品をてきぱきと片付け、鏡台や寝台周りを整えました。

「……では、私はこれで失礼致します、ローゼル様」
「ありがとう。とても助かったわ」
「明日の朝、お迎えに参りますので……ゆっくりお休みなさいませ」
「ええ。お姉様に宜しく伝えてね」
「畏まりました」

 侍女はジャナをちらりと見ると、頭を下げて部屋から去って行きました。

「ロゼ姉様?」
「なあに、ジャナ」

 ローゼルは着ていた普段着に近いドレスを脱いで、持参した部屋着に着替えました。

「……今の侍女の方は、お昼は、お客様では有りませんでしたか?」
「まあ!よく見ているのね、ジャナ」

 着替えを終えたローゼルは、そう言うと鏡台の前に座りました。

「あの人は、私の侍女では無いの。だから、今もお仕着せは着ていないし、昼間は侍女としてではなくて、お客様として出席していたのよ」

 ローゼルは話しながら髪を梳き、肌に良い香りのする芳香水や香油を塗りました。

「……ジャナ?ちょっと、こっちにいらっしゃい」
「はい、姉様」

 近くまでやって来たジャナに椅子を譲ったローゼルは、丁寧に銀の髪を梳かし始めました。

「どれか、好きなものは有る?」

 ローゼルは自分の使ったあれこれを、ジャナに見せて試させました。そして、好きだと言った物だけを、優しい手付きでほんの少し塗ってやりました。

「……さっきの人には、事情が有って今だけ手伝って貰ったの。もう、本来の主様の方の元に戻っていると思うわ」
「そうなのですね」

 ジャナは、施された女の手入れのあれこれを、慣れないながらもくすぐったく嬉しく感じました。
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