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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する
「だって、師範様のお眼鏡に適って、女の子の身で入門を果たした、ビスカスの妹弟子だもの。私にとっても、妹よ?」
「ロゼ姉様……」
ジャナはローゼルの言葉に、思わず涙ぐみました。
ジャナの両親は亡くなっておりますし、兄弟も居りません。療術の師匠と治療処に関わる人々が、今までジャナの家族代わりでした。闘人館にーーウバシに受け入れられてからは、そこでも家族同様の師や先輩や仲間達が増えました。ただ、今は性別を偽っているため、信頼している仲間を騙しているという後ろめたさは、常にどこかに在りました。
そんな中で、自分が女で有ることを知っても変わりなく接してくれて、弟弟子でも妹弟子でも有ると言ってくれたビスカスとローゼルは、ジャナにとっては一緒に居て心からほっと出来る、特別な二人であったのです。
その、大事なローゼルに、本当の妹同然だと言って貰って、ジャナは胸が一杯になりました。
「……ビスカスが修行に行っていた頃に、師範様には、本当にお世話になったみたいなの。秘密にしないといけない事も沢山有る場所だから、全部は話してくれないし、はっきり感謝を口にするような人でもないから、私がそう思っているというだけなのだけど……ジャナだけでなく、そんな師範様のことも、私はお兄……お姉様みたいに思えるのよ」
「はい。師範さまは私にとっても、心から信頼する、尊敬出来る方です。師と仰ぐのに相応しい……いえ、勿体ない様な方に出会えて、私は本当に幸です」
熱を込めて師を賞賛するジャナを見て、ローゼルは微かに苦笑しました。
「……ジャナ?」
「はい?」
「師範様の事を、お慕いして居るの?」
「はい。本当に素晴らしい師匠だと思っています。療術の師匠と同じ位か、それ以上に、尊敬しています」
「そう……」
(……それは、恋ではないのでしょうね……)
ローゼルはジャナとウバシが踊った様を思い出しながら、複雑な気持ちでそう思いましたが、口には出しませんでした。
姉妹二人はそれからしばらくたわいもないお喋りを楽しむと、暖かく静かで安らかな眠りに落ちて行きました。