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プロポーズ体験売り出します
第5章 二人目のお客様
握りしめている缶コーヒーがテーブルの上でカタカタと音をたてている。
手が震えているからだ。こんなに興奮したのは久しぶりだ。
でも興奮してもおかしくないだろ?芝居でもプロポーズした相手が
人生の仕打ちに心を締め付けられているんだ。
俺は何としても彼女の気持ちを奮い立たせたかった。
生き続けるんだという勢いを持ってもらいたかった。

「ごめん、病気にもなったことのない俺に何が解るって思うだろうけど・・
 ただ、まだわからない先の事に怯えながら生きてほしくないんだ。
 明日を楽しみに・・生きてほしいんだ」

その瞬間、彩加の眼から大粒の涙が滑り落ちた。
その表情は、悲観にゆがんだ顔じゃなく光をつかんだような安堵の笑顔だった。
ビルのガラス窓から跳ね返った夕日の眩しさに目を細める彩加は、
さらに涙を落としながら大きくうんうんとうなずいていた。

「そうやって怒鳴ってくれたの菱沼君が初めてだよ。みんな悲しみばかりが先行して
 いつも柔らかい励まししかしてくれないからさ。ああ、みんな諦めてるんだなって、
 かえって申し訳なく思ってたけど・・・ありがとう、菱沼君。
 おたくの商品、買ってよかったよ。それも菱沼君に売ってもらって、
 ここが一番良かった点かな」
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