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蝶々と甘い蜜。
第8章 【三島編】愛する人
『母さん、寒い?手が冷たいよ』


母親は父親に付き添って仕事に行くことが多かったから、一緒に過ごせるのはほとんどなかったけど、寝ている俺のおでこを母親の温かい手が触れるのを、母親が帰ってくるのを、子供のころずっと待っていた。だから、母さんの温かい手が、この温もりが俺の精神安定剤みたいなものだった。


『いつの間にか、あなたの手のほうが温かくなってしまったわね。』


この手に残された温もりさえもなくなってしまったら、そのまま命の炎が消えてしまいそうで、一生懸命手をさすった。さすりながら……目に溜まっている涙を落とさないように必死だった。


『恭弥……あなたが結婚して奥さんとなる人の手を放したらダメよ。』


『え……?』


『この人だと思ったら……どんなことがあってもその人の手を放したらダメ。きっと後悔するから。』


『母さん?』


『私にはわかるの。あなたは優しい人だから。これを……』



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