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蝶々と甘い蜜。
第8章 【三島編】愛する人
「待って…!」


やっと空気の重い部屋を出れる、そう思って扉を開けた瞬間、呼び止められ唇に冷たい感触を感じた。


「……お休みなさいっ……」


今にも泣きそうな表情でつぶやく彼女は、まるで少女のようで、抱きしめて安心させたい気持ちはあるが、身体が動かなかった。


夫婦の寝室となるはずだったこの部屋は、彼女が家を出てからは1人で使っていた。広くて寂しい部屋だったが、彼女のことを忘れたくない思いもあってこの部屋を使っていたのだが…彼女が帰ってきたというのに、まさか自分からこの寝室を出るとは思ってもいなかった。


「外出されるのですか?」


「甲斐…ちょっと出かけてくる。帰らないかもしれない。」


「……かしこまりました。」


「何か言いたそうだな。」


「……奥様とお話されたのですか?」


「今日は私も色々あって疲れた。彼女も疲れていると思うから休ませてあげてほしい。」

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