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チカちゃん先生のご褒美
第9章 チカ先生の卒業
「えっと……」
あまり来たことの無い駅の、改札の手前で、立ち止まった。
バッグの中の、カードケースを探す。いつもと違うバッグにしたから、探すのに時間がかかる。
……どこに入れたっけ。
「あれ?チカちゃん?」
「……あ。」
探っても見つからないからバッグを覗いて探していたら、名前を呼ばれた。
「内川くん?二次会は?」
「用が有って、残念ながら今日はパス」
「そっか。この線なんだねー」
「まあね」
居酒屋は、地下鉄とかJRとか、いくつかの路線の間あたりに有った。
帰る駅が同じなんて、何分の一かの確率だ。
「何してんの?」
「カードが、行方不明……」
「相変わらずのゆるキャラっぷりだねー」
元・生徒に、笑われた。
未だにゆるキャラって言われるなんて、先生として失格なんじゃない?自信無くすなあ。
「先行っていいよ、待ってなくても」
「なんで?待ってるから、ゆっくり探しなよ」
「待っててくれても、同じ方向か分かんないし」
「チカちゃん、あっちホーム?こっち?」
あっちか、こっちか。
改札を入ってそのまま直結のホームか、階段降りて向こう側かって意味だよね。
「……こっち側。」
「俺も、こっち」
話してる間もずっと探してるけど、なぜか全然見つからない。
だんだん泣きたくなって来る。
野際くんにからかわれて、脅されて、触られて、カードはどっかに行っちゃって、元生徒にはゆるキャラとか言われて笑われて。
……やっぱり、先生、向いてないのかな。
私なんか放って置いて良いのに、内川くんは待っててくれた。
「方向同じだし、待ってるよ。飲んだ後の女の人、一人で帰せないし」
「カードも探せない酔っ払いと思ってるでしょ」
「別に?良くある事じゃん?……カード、財布とかに入れてないの?」
「ううん。カードケース……あ。」
財布を出して、開けてみる。
「……有った。」
バッグを替えた時、カードケースから出して財布に入れたの、忘れてた。
探しまくって、財布は?って言われたのも思いっきり否定たのに、結局、そこに有ったなんて。
ますます、自信無くす。
ゆるキャラだもんね!とか、からかわれるかと思ったけど。
「有った?良かった!じゃ、行こう」
内川くんは、それしか言わなかった。
俯いていた私の手を引いて、改札に向かって歩き出した。