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チカちゃん先生のご褒美
第9章 チカ先生の卒業
「お、ラッキー。次は通過だけど、その次はちゃんとした電車だ」
「ちゃんとした、って」

 引かれた手は、改札を通る時に自然に離れた。
 ホームの表示板を見て呟かれた言葉に、笑ってしまう。
 この駅は各駅しか止まらないから、通過するのは快速か急行なんだろう。

「だって、時々隣が終点のとか来るんだよ?来た!って駆け込んで騙された事が、何度有ったか」
「駆け込み乗車なんかするからだよー。この駅、よく来るの?」
「うん。高校の飲み会も、いつもここだし」
「そっか。みんな来やすいもんね」

 この駅は学校の最寄り駅じゃない。最寄り駅は使える路線が一つだけだから、卒業したあと集まるには、ここの方が良いんだろう。飲み屋さんも、圧倒的に多いし。

「……チカちゃん?」
「うん?」
「なんで、結婚してないの?」
「なんで、って」

 返事に困ってたら、電車が目の前を通過して行った。

「一人じゃ結婚出来ないでしょ?」
「え?」

 聞き返された。
 電車が通り過ぎるまで待って言ったから、聞こえなかった筈は無いのに。

「結婚するには、相手が要るから。まずはそこからかな」
「……そう……」

 そこに電車が入って来て、乗り込んだ。

「混んでるね」
「朝ほどじゃ無いけどね。この時間、あんまり乗らない?」
「うん。時間も経路も、縁がないかな」
「そっか」

 ドアが開くたびに人が降りては乗り込んで来て、内川くんが私を奥に回してくれた。
 混んでるから邪魔にならない様にぽつぽつと、皆の近況とか話しながら、電車に揺られる。

「内川くんは、どこまで?」
「え?」
「私、次の次で乗り換えなんだ。そこで、お別れかな」
「そっか」
「うん。またね。いろいろ、ありがとう」

 内川くんは、何か考えるみたいに黙り込んだ。
 それから、ポケットに手を突っ込んで、スマホを出した。

「メール?」
「ううん」

 スマホをいじりながら、今度はイヤホンを取り出して繋いだ。

「無線じゃないんだ」
「うん」
「ふーん……今聴いてるのは、音楽?」
「うーん」

 イヤホンを片方嵌めて何か操作してた内川くんが、もう片方を差し出した。

「聞く?」
「え?」

 渡されたイヤホンを、なんとなく受け取って、耳にはめて。

「……っ!?」

 再生された音を聞いた、私は。
 その音以外、何も聞こえなくなった。
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