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チカちゃん先生のご褒美
第9章 チカ先生の卒業
「少し話したいんだけど、どこ行く?」
「……やっ」

 繋がれてた手を、強引に引き離す。

「嫌。どこにも行きたくない」
「別に、ここでもいいよ?チカちゃんが良いなら」

 内川くんは、ホームのベンチを指差した。

「ただし、話が周りに丸聞こえだけど」
「…………」
「どっか店に入るって言っても、普通のとこじゃ近くのテーブルに筒抜けだし、個室の有るとこじゃないと……俺は良いけど、チカちゃんが困るんじゃない?」

 だんだん、腹が立ってきた。

「困らないよ。勝手に決め付けないで」
「そう?」
「私、仕事、辞めるつもりだから」
「え」

 驚いた顔を見て、すっとする。
 本当に、ずっと考えていたことだ。口に出したのは、初めてだけど。

「今日の事が無くても、辞めたいって思ってた。私には、向いてないって……もう、疲れちゃったし」
「疲れたのってさ、」

 半分やけになって言ってたら、思いもしなかった言葉が返って来た。

「もしかして、鈴木太郎のせいも有る?」
「えっ」

 どうして、その名前が出てくるの。
 動揺が声に出ない様に、なるべく何気なく聞こえる様に、口を開く。

「鈴木先生?どうして?」
「チカちゃん、付き合ってたよね?鈴木と」
「……っ!」

 どうして、知ってるの。

「付き合ったりなんか、してないよ?」

 なんて答えたら良いんだか分からなくて、とっさに口から出たのは、嘘だった。

「勘違いじゃない?私、職場恋愛はしない主義なの。けじめが付かなくて、嫌じゃない?」
「勘違いね……」

 じっと、目を見られる。
 たじろいじゃ駄目だ、普通にしなきゃ。そしたらきっと疑いも解ける。
 そう思ってたのに。

「俺、見ちゃったんだよね」
「見た?何を?」

「正確に言うと、見たのは俺だけじゃなく、野際もだよ。見た物は、」

 内川くんは一回そこで言葉を止めて、少し考えて、言い直した。

「……っていうか、見た場所は、チカちゃんに最後の『ご褒美』貰った後の、視聴覚室」

「え」

 最後のご褒美の後の視聴覚室……まさか。
 でも、それなら分かる。どうして急に太郎さんの名前が出て来たのか。

「チカちゃんは、辞めちゃうんだ?」

 内川くんの声が、頭に響く。

「なら、何がどうなっても良いよね?でも、鈴木先生は、どうだろうね?」

 内川くんは困ったみたいに、笑った。
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