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チカちゃん先生のご褒美
第9章 チカ先生の卒業
「……それは、脅し?」
「別に?ただ、不思議なだけ」
「何が?」
私達は降りた場所から移動もせず、ベンチに座りもせず、立ち話を続けていた。
まだ冬じゃないけど、夜は少し冷える。そのせいか、時々電車が通過していくと、風が当たってぶるっと震えた。
「先生さあ。何で、独身なの?」
「なんで、って」
内川くんも野際くんみたいに何かしてくるのかと思ったけど、今のところ、それは無い。場所が場所だからかもしれないけど。
学生の飲み会がお開きになる時間だから、通勤のピークはとっくに過ぎている。各駅しか停まらない駅のホームの端の方にやって来る人はほとんど居なくて、私達は誰にも遮られずに、話を続けた。
「俺らの在学中にはもう、鈴木と付き合ってたんだよね?なのにまだ結婚もしてないし、付き合ってる奴が居る事さえ俺らに言えないって、どういう事?」
「……だって……みんなは、生徒だし……」
「生徒って……在校生ならともかく、俺らとっくに卒業してんだよ。隠す必要ある?」
苦しい言い訳をしたら、突っ込まれた。
「鈴木とは、どうなってんの?セフレだったの?」
「……違う……」
何を言われても、反論出来ない。見られて、聞かれて、自分のしたことで弱みを握られてるんだから……そう思って、ほとんど一方的に話を聞いてた。
でも、どうしても言われたくない事は、有る。
私と太郎さんは、ちゃんと付き合ってた。少なくとも私は、そう思ってる。
「じゃあ、捨てられたの?鈴木に。それで疲れて辞めるの?」
「違うよ。」
「じゃあ、」
首を振った私に、内川くんは言いにくそうに言った。
「鈴木がやってる『ご褒美』に、疲れたの?」
……太郎さんがやってる、ご褒美。
その意味は、二つ有る。
太郎さんが私にやらせた生徒へのご褒美という意味と、太郎さん自身がやっている生徒へのご褒美という意味だ。
内川くんが知ってるのは、最初の方だ。内川くん自身がご褒美を貰った生徒だし、太郎さんが私にそれを提案してた事も……視聴覚室で私達がしていた事を見てたなら、分かってるはず。
でも、もし、もう一つのご褒美の事を、言っているのなら。
「それ、」
ご褒美の意味を聞くために口を開きかけた時、酔っ払ったサラリーマンのグループがホームに現れて、辺りが急に賑やかになった。