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チカちゃん先生のご褒美
第9章 チカ先生の卒業

 私は、口にしかけた質問を引っ込めた。

 酔っ払いグループは、ベンチに座って大声で騒いでる。他の人の事なんか気にしてないかもしれないけど、私が内川くんに聞きたい事は、人の居るとこで聞けることじゃない。

「どうする?」

 同じように考えたらしい内川くんが、聞いてきた。
 どうしよう。ここで話をうやむやにして、また今度って言って、フェイドアウト……っていうことも、出来なくはなさそうだけど。

「行こ。」
「え」
「どこかで、話そう」

 話して、今日決着を付けよう。そう決めた。

 私だけの事なら、このままにしておいたって構わない。もともと、辞めても良いと思ってたんだし。勤続年数も少ないから、職場だってそんなに困らないだろう。

 でも、太郎さんの話が出た以上、放って置くことは出来ない。
 太郎さんは、辞めたくないだろう。キャリアだって、私なんかとは全然違う。
 仕事も沢山抱えてるから、急に辞めなきゃいけなくなったら、職場だって迷惑だ。

 そう思ってどこかに行こうと言ったのに、内川くんから答えが返って来ない。
 さっき電車を降りた時、駅を出てどこかで話そうと言ったのは、内川くんなのに。

「……とりあえず、出よっか。」

 反応が鈍い内川くんの手を、さっきと逆に私の方が引っぱって、私達は出口に向かった。


   *

「……ここも、ダメ。」
「そう」

 お店に聞いて、断られてを何度か繰り返して、私達は駅前の賑やかな辺りが終わる所まで来てしまった。
 各駅しか停まらない様な駅だから、商店街は小さめだ。飲み会の後ホームでしばらく話していたから、時間も遅い。
 うるさい飲み屋やファーストフードじゃない、落ち着いて話せそうな店は、ほとんどラストオーダーの時間だった。

「どうしようか。電車乗って大きい駅まで出る?」
「……あそこで良いよ。」

 商店街から少し離れた、路地を曲がった所にある建物を指差す。

「えっ」
「行こ」

 驚く内川くんを見ずに、さっさと目当ての建物に近付く。入り口が分からなくて少し迷ってる間に、内川くんに追い付かれた。
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