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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
帰り支度を終えた笙子を玄関ホールまで送る。
「こんな遅くまで申し訳ありませんでした。笙子さん」
春物のオフホワイトの外套を身に纏った笙子は白い花のように密やかに微笑んだ。
「いいえ、お役に立てて良かったですわ」

大階段を見上げながら、囁く。
「…随分ご苦労されたようですわね。清良さん…」
郁未もため息を吐いた。
「…ええ…。十四歳から一人で生きて来たようですし…。
金持ちの財布を擦るくらいのことしかまだしていなかったようなので、本格的に悪事に身を染める前に救い出せて良かったです」
笙子の涼やかな美しい瞳が優しく微笑う。
「これから私も出来るだけお力になりますわ」
ほっとした想いに、郁未も安堵の笑みを漏らした。
「助かります。男性の僕には、なかなか言い出せないこともあるでしょうし…」
「ええ、清良さんの良き話し相手となれますように及ばずながら努力いたしますわ」

笙子はちらりと廊下の奥に眼を遣った。
「…兄は…もう帰りましたの?」
…ああ…と、郁未は頷いた。
「今日は早く上がってもらいました。
…美鈴さんの誕生日だそうで…」
「…そうですか…」
ふっと、その気品ある美貌に寂しげな影が差した。
おや…と、不思議に感じる。

「…兄は本当に美鈴さんを大切にしているようですね…」
「お兄様は優しい男ですからね…」
…優しい男だ。
恋愛感情が微塵もないような男に、優しくキスをしてくれるような…。
そして、ずっと変わらない友情を捧げてくれるような…。
…そんな…優しい男なのだ…。

「美鈴さんはお幸せですわね。
…兄にそんなにも愛されて…」
笙子のやや潤んだ黒い双眸に切なげな色が宿る。
「…あの…。笙子さん…」
…以前から、少し気になっていたことを思い切って口に出そうとしたその刹那…

玄関の扉が開き、すらりと背の高い男の姿が現れた。
「…笙子さん。迎えにまいりましたよ。
…ああ、嵯峨さん。こんばんは。お久しぶりですね」
知性溢れる端整な貌立ち…眼鏡の奥の瞳が優しく微笑んでいた。

「岩倉先生、こんばんは。ご無沙汰しております」
…笙子の夫、岩倉千紘に郁未は親しげな笑みを浮かべながら手を差し出した。



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