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第1章 春の野良猫

「学院の案内は、明日しよう。
…まずは食事だな。お腹が空いているだろう？」
郁未は清良を離れの自宅に導きながら振り返る。
「食事は皆、寄宿舎で摂るのだけれど、今夜はもう遅いから僕の自宅で家政婦さんが用意してくれている」

離れの道を好奇心旺盛にきょろきょろ見回しながら、清良は尋ねた。
「あんた、独身？」
「そうだよ」
「ふうん…。やっぱりね」
にやりと笑ったのが気になり、眉を寄せる。
「何がやっぱりなんだ？」
清良は鼻で笑う。
「あんた、いかにもモテなさそう。
見た目は良いのに頼りなさそうだし気が弱そうだし押しが弱そうだからさ。
…あの綺麗な奥さんのこと、あんた好きなんじゃないの？」

郁未は軽い目眩を覚える。
…何て生意気な子だ。
引き取ったことを少し後悔する。
「笙子さんは僕の親友の妹さんで人妻だ」
「人妻だっていいじゃん。あんな上玉の人、滅多にいないよ。頑張んなよ。じゃなきゃ、あんたみたいな鈍臭そうな男はずっと独身だよ」
ため息を吐き、足取りを早める。
「…少し黙ってくれないか。頭が痛くなってきた…」

離れの屋敷の扉を開ける。
玄関ホールのシャンデリアには暖かな灯りが灯っていた。
家政婦が気を利かせて点けておいてくれたのだろう。
清良は中に入ると、歓声を上げた。
「…うわあ…！すごい…！お城みたい！」