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僕の美しいひと
第1章 春の野良猫
清良のテーブルマナーは酷いものだった。
コンソメスープを皿ごと持ち上げ、飲もうとしたり、皿の上のローストチキンをフォークで乱暴に突き刺し食べようとするのを、郁未は慌てて制する。
「スープはこのスプーンを使って。
音を立てて飲んでは駄目だよ。
肉を切る時はフォークとナイフを使うんだ。
右手にナイフ、左手にフォーク。
上から軽く握るようにして。
肉は左端から切る。
ああ、音は立てないで。
…こうだよ」
清良の後ろに回り、手を重ねてやってみせる。
小さな舌打ちが聞こえる。
「面倒くさいなあ。どうやって食べようと同じことじゃん」
「舌打ちしない。
マナーは他人に不快な思いをさせないためにあるんだ。
つまり、思い遣りだよ。
それから、正しいマナーを身に付けたひとは美しく見える。
君は美人なんだから、マナーがなってなくて軽んじられたら勿体ないだろう?」
郁未の腕の中で清良が振り向き、にやりと笑った。
「あんた、やっぱりあたしに気があるの?」
郁未はため息を吐き、手を離す。
「すぐにそういう下世話な発言をするのが君の悪いところみたいだな。
…さあ、あとは一人で食べて」
向かいの席に戻り、様子を見守る。

清良はそれでも神妙に食事を始めた。
ローストチキンを一口食べ、眼を見張る。
「美味しい!なにこれ⁈こんな美味しいもの、初めて食べたよ!」
まるで子どものような笑顔を浮かべた。
それはどきりとするほどに可愛らしく、郁未は思わず見惚れてしまう。
そんな自分に戒めるように、表情を引き締めた。
「それは良かった。たくさん食べなさい」
「うん!ありがとう!」
にこにこしながら一途に食事を進める清良は、無邪気で擦れた様子が全くない。
…意外に可愛いところがあるのかもな…。
和やかな気持ちで見つめていると、清良がフォークを止めて再び揶揄うようににんまりと笑った。
「…あんた、やっぱりあたしが好きなんじゃないの?
仕方ないか。独身のモテない男にはあたしみたいな別嬪は刺激的だもんね」

…前言取り消しだ!
可愛くともなんともない!
郁未はあからさまにむっとして声を荒げた。
「お喋りしないで早く食べなさい!」









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