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僕の美しいひと
第3章 じゃじゃ馬ならし
郁未は食事を載せたトレーを手に、穏やかな表情を湛えていた。
「お腹が空いただろう?
…食事を持ってきた。食べなさい」
清良はむっと唇をへの字にして、そっぽを向いた。
「いらない!腹なんか減ってない!」
…同時に、清良の腹の虫が派手に鳴った。

慌てる清良を郁未は可笑しそうに笑うと、さっさと中に入り、机の上にトレーを置いた。
「意地を張らない。さあ、おいで。
今日はうちの家政婦さんの得意な蟹クリームコロッケとエビピラフだったんだよ。まだ温かい。早く食べなさい」

…清良はテーブルマナーを習う為に、晩御飯は郁未の屋敷で一緒に摂るようになっていたのだ。
それは特別扱いと言えるものだった。

「コロッケ…⁈大好き!」
清良は思わず美しい瞳を輝かせた。
「さあ、食べなさい。成長期の子どもは食事をしっかり摂らなくてはね」
頬を膨らませながらも清良は椅子に座る。
こんがりきつね色に綺麗に揚がった上品なコロッケからは、香ばしい香りが漂っていた。
「子どもじゃないもん!もう十七だよ」
ナイフとフォークを並べて、郁未は好意的に笑う。
「まだまだ子どもだよ。僕から見たら。
さあ、たくさん食べなさい」
少し恥ずかしそうに、清良はナイフとフォークを手にする。
それでも懸命に、習いたてのテーブルマナーで食事を始める。
その様子を郁未は優しく見守った。
「上手くなったね。君はとても勘がいい」
「…美味しい!何これ!あたしが知ってるコロッケと全然違う!」
無邪気に声を上げたが行儀が悪かったかと思い、はっと押し黙った。
郁未は向かい側の椅子に腰掛けると、にこやかに笑って首を振った。
「いいんだよ。美味しいものを美味しいと言うのは正しいマナーだ。
君の良さはその率直さなんだから。
…今夜の食事は、僕一人だった…。
君のお喋りが聞こえなくて、なんだか寂しかったよ」

褒められて、清良はやや怒ったようにクリームコロッケを口に押し込んだ。
そして、神妙に尋ねた。
「…あんた…嵯峨先生さ…。
本当にあたしがその…レディとやらになれると思ってんの?」

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